DSPでバックカタログの隠れた価値を引き出す

要点まとめ

あなたのバックカタログは、デジタル成長の原動力です。業界が新譜にばかり注目する中、2024年のストリーミングの活動の70％以上はカタログ音源によるものです。このガイドでは、カタログをDSP、シンク、ソーシャルメディアなどで新たに録音せずとも再活性化できる10の確かな戦略（+追加の1つ）をご紹介します。

なぜカタログに最前線の戦略が必要なのか

インディペンデントレーベルや権利者にとって、カタログは単なる懐かしさではなく、戦略そのものです。あなたはすでにコンテンツを所有しています。次のステップは、その価値を解き放つことです。

現在、SpotifyやApple Musicなどのプラットフォームでの音楽消費全体の70％以上が既存のカタログに由来しています。しかし、多くのレーベルやアーティストは、重要な収益やファンとのエンゲージメントを見逃しています。

バックカタログをストリーミングプラットフォームで成功させるための、実例に基づいた10の実践的な戦略をご紹介します。

1. メタデータを極める：すべての土台

メタデータはあなたのカタログを発見可能にし、収益化し、プレイリストにも載せられるようにするカギです。

やるべきこと：

• 演奏者、作詞・作曲者、プロデューサー、レーベルのクレジットを完全に記載する
• プロダクションやエンジニアリングの役割も記載する（Apple Musicへの対応のため特に重要）

例：

De La Soulは、Gorillazの2005年のヒット曲「Feel Good Inc」— 2枚目のアルバム『Demon Days』のリードシングル —に公式クレジットされて以来、Spotifyで月間1,500万人以上のリスナーを獲得しています。⁠

2. DSPツールで過去の楽曲に新たな命を吹き込む

DSPは、カタログの活性化をサポートする機能を提供しています。未活用のバックカタログがある場合には特に有効です。ここではいくつかのDSPツールを紹介します。

Spotify Showcase

Spotify Showcaseを使えば、カスタムヘッドラインとともにホーム画面に楽曲を特集できます。記念日やシンクロのタイミングに最適です。

Spotify Canvas

カタログ楽曲向けのループ映像がスキップ率を下げ、シェアを促進。オリジナル映像がないレガシー音源にも特に役立ちます。

Spotify Discovery Mode

Discovery Modeは、Autoplayやラジオでカタログの露出を拡大します。最近のシンクやキャンペーンに関連した楽曲を再浮上させるのに効果的です。

Apple Music Motion & Essentials

Motionアートワークによるアニメーションカバーでカタログをビジュアル的にアップデート。Essentialsピッチングを使えば、レガシーアルバムを編集部の注目作品として再提案できます。

3. ウォーターフォーリング：古いトラックを新しい文脈で、さらに多くのストリームへ

ウォーターフォーリング＝カタログ曲を新しいシングルやEPにまとめること。リリースフィードやアルゴリズムのループに曲を残す手法です。

戦術:

• 既存のカタログの中で目立つトラックをボーナストラックとして新しいリリースに追加する

例:

Jayda Gの2024年のシングル「Feeling Alive」には、2020年の「Both Of Us」が収録されており、プレイリストやパーソナライズされたフィードを通じて露出を高めています。

4. 発見を促進する戦略的なリミックスクレジット

リミックスは、巧みにクレジットされることで大きな力を発揮します。適切な場合にリミキサーをメインアーティストとしてクレジットすることで、新たなオーディエンスへの可能性が広がります。

なぜ効果的なのか：

• リミックスが両方のアーティストのプロフィールに表示される
• ファン層同士の相互交流につながる
• アルゴリズムによる関連付けで発見される可能性が高まる

例：

一部のレーベルでは、リミキサーを共演アーティストとして頻繁にクレジットし、カタログ楽曲にエディトリアルやアルゴリズム環境で新たな命を吹き込んでいます。

5. 高品質なリリックビデオとビジュアライザー

YouTubeはカタログ楽曲の発見を促進する最大のプラットフォームの一つです。優れたビジュアルは、過去の音楽を目立たせ続けるのに役立ちます。

制作するもの：

• リリックビデオ
• ビジュアライザー
• アーカイブ映像の再編集や写真のモンタージュ
• アーティストによる解説オーバーレイ

例：

• De La Soulのリリックビデオ
• Nina Simoneのビジュアライザー

これらのフォーマットは、少しアレンジするだけでShorts、Reels、TikTokでも優れたパフォーマンスを発揮します。

6. Dolby Atmos と空間オーディオを有効化する

Apple Music や TIDAL などの DSP は、没入型リスニングを重視しています。ステムやマルチトラックがある場合、Dolby Atmos でカタログをリミックスすることで、以下のメリットがあります。

• “Spatial Audio” コレクションへのプレイリスト掲載の可能性
• 旧作アルバムへの新たなコンテキストの付与
• エディトリアルやマーケティングチャネルを通じた再プロモーションの理由になる

活用できるツール：

• Dolby認定スタジオと連携する
• オリジナルファイルがない場合は AudioShake を使ってステレオミックスからステムを抽出する

7. シンクライセンス：待つだけでなく、計画的に備える

シンク契約は、戦略的なサポートがあってこそ最大限の効果を発揮します。

準備のポイント：

• 権利をクリアにする（マスターと出版権）
• カタログ楽曲にテーマ、ムード、用途でタグを付ける
• DISCO や Chordal（Revelator Marketplace経由で利用可能）を使って売り込む

シンクの機会を盛り上げる方法：

• ディスカバリーモードやショーケース
• SNSでの「〜で紹介されました」投稿
• リリックビデオやビジュアルのまとめ動画

例：

ケイト・ブッシュの『ストレンジャー・シングス』でのシンク起用は、“Running Up That Hill”を1位へと押し上げました。DSPでの後押しやファン向けコンテンツがあれば、その勢いはさらに広がったかもしれません。

8. クリエイターやプロデューサーを巻き込んでカタログを活性化する

あなたのバックカタログはリスナーのためだけのものではありません。プロデューサー、リミキサー、コンテンツクリエイターのためのツールキットでもあります。このコミュニティと関わることで、リミックスやリアレンジ、バイラルなTikTokオーディオやシンクリードなど、あなたの音楽の全く新しい活用法が広がります。

活性化のためのポイント：

• ステム、インストゥルメンタル、別テイクを準備し整理する
• Tracklib などのプラットフォームで楽曲を正式にサンプリング可能に提供する（権利がクリアされていれば）
• Beatportのリミックスコミュニティ のようなクリエイター主体のハブでリミックスコンテストを開催する
• 優れたリミックスやサンプルをDSPのプレイリストやSNSキャンペーンで紹介する
• クリエイターが作成したエディットをReels、TikTok、Shortsでシェアし、バイラルな広がりを促進する

プロデューサーは常に新鮮でサンプルに使える素材を探しています。彼らがアクセスしやすいようにし、創造性を称賛することで、眠っているカタログがコミュニティ主導のムーブメントへと生まれ変わります。

9. 新たな市場向けにローカライズとバージョン展開

ひとつのカタログ楽曲が、スマートなバージョン展開で複数のチャンスに。

アイデア：

• 新しい言語でボーカルを再録音する
• 現地のリミキサーとコラボレーションする
• TikTok向けにスローバージョン、スピードアップ、ローファイバージョンをリリースする

例：

Charli XCXの『Sucker』日本版は、ローカライズしたコンテンツで新たなリーチを獲得しました。

10. 曲（またはアルバム）の背景を語る

背景を知ることでつながりが生まれます。ファンは音楽の“理由”を知りたがっています。

やること：

• アーティストのボイスメモやライナーノーツの朗読をシェアする
• 舞台裏の瞬間や過去のインタビュー映像を投稿する
• ショート動画形式のストーリーテリング（リールやTikTok）を作る
• 重要なアルバムについて長尺の解説やミニドキュメンタリーを制作する

例：

• マーク・ロンソンのTikTokデモ。エイミー・ワインハウスの『バック・トゥ・ブラック』が大きな話題に
• プリンスのポッドキャストエピソード。『ダイアモンズ・アンド・パールズ』で、音声とアーカイブ映像を組み合わせたカタログ・ストーリーテリングの手本を提示

11. ソーシャルコンテンツと有料広告でカタログを拡大する

音楽は人々に見られてこそ動き出します。

注目すべきポイント：

• ショート動画：リミックスの公開、シンクの成功、ストーリーテリング
• アニバーサリー、デラックス盤リリース、編集部での快挙などに合わせたInstagramやTikTok投稿のブースト
• ストーリーテリングとターゲティングで、熱心なファンと新しいオーディエンスの両方にリーチする

再確認：カタログ有効化チェックリスト

メタデータ最適化
発見性と収益化を実現します。

DSPツール（ショーケース、ディスカバリー）
古い楽曲を様々なフィードで再提示します。

ウォーターフォーリング
コンテンツの循環を維持します。

リミックスクレジット
共有プロフィールによって露出を拡大します。

リリックビデオ＆ビジュアル
シェアしやすさやYouTubeでの発見性を向上させます。

ドルビーアトモス＆空間オーディオ
編集部やリスナー向けに新たなフォーマットを追加します。

Chordal / DISCOとの同期
カタログをカルチャーモーメントに変えます。

サンプリング対応
カタログをプロデューサーやUGCに開放します。

ローカライズ＆バリアント
最小限の労力でリーチを拡大します。

ストーリーテリング
感情的な印象を強めます。

ソーシャルコンテンツ＋有料メディア
重要な瞬間を大規模に拡散します。